論文紹介:リズムは信頼の肝心かなめ

あけましておめでとうございます.2017年は,学術論文の紹介で始めさせてもらいます.初めに断っておきますが,以下の内容はあくまで論文を読んだ僕個人のまとめですので,個人の解釈による部分も含まれます.なるべく主旨から外れないよう努力はしていますが,内容の正確な理解のためには論文そのものを確認する必要があることをご理解ください.

(書誌情報:著者名,発行年,タイトル,掲載雑誌,号数・ページ数,DOIコード)
Knight, S., Spiro, N., & Cross, I. (2016).
Look, listen and learn: Exploring effects of passive entrainment on social judgements of observed others.
Psychology of Music, 1–17.
https://doi.org/10.1177/0305735616648008
(タイトル日本語訳…見る,聞く,学ぶ:受動的な同期が,観察した他者に対しての社会的判断に及ぼす影響を探る)

この研究では,受動的な同期を,「動きとリズムがあっている人物を見ること」ということとし,社会的判断を,「対象人物が信頼できるのかどうか」ということとしている.背景のリズムと自らの動きがあっている人/あっていない人をそれぞれどの程度信頼できると判断するのか,ということがこの研究の主眼である.

ひとつの実験がこの研究で行われた.参加者は11種類のビデオクリップを繰り返し見せられた.それぞれのビデオクリップには,女性が一定の速さで歩いている様子が映されており,そのBGMとして4つの音が用意されていた.映像の人物が歩くリズムを基準にして,遅い/同じ/早いリズムの単純なドラムビートと,リズムを持たないノイズとの4つである.このドラムビートのリズムによって,背景のリズムと自らの動きがあっている人/あっていない人という条件を設定した.具体的には,1. シンクロしているビート条件,2. シンクロしていないビート条件,3. そもそもリズムがないノイズ条件の3つに分けられた.

ひとつのビデオクリップの再生が終わるごとに,映像に関する質問が表示された.例えば,花束を持った人物の映像だった場合は,このようなものだ.
「この人物はどこへ向かっているでしょうか?次の1と2からお選びください.1. おばあさんの家へ花束を届けに行く,2. 不倫相手の家へ花束を届けに行く」
このように,映像の人物が良い意図を持っているか,悪い意図を持っているかを二択で選ばせたことで,多少強引ではあるが,人物に対する信頼を判断させた.

論文の著者たちは,次のような2つの仮説を立てたうえで,この実験を行ったようである.
1. シンクロしていないビート条件よりは,シンクロしているビート条件のほうが,良い意図を持っている(=信頼できる)と判断しやすいだろう.
2. そもそもリズムがないノイズ条件よりは,シンクロしているビート条件のほうが,良い意図を持っている(=信頼できる)と判断しやすいだろう.

統計的な分析の詳細は原典をあたってもらうとして,結果の概要をまとめると,以下のようになった.
1. シンクロしているビート条件 ≒ 3. そもそもリズムがないノイズ条件 > 2. シンクロしていないビート条件 の順に信頼できる程度が大きかったのである.
仮説1は支持されたが,仮説2は支持されなかったという結果になったと言えるだろうか.ただ,仮説にこだわらずにこの結果を説明すると,「背景のリズムと自らの動きがあっていない人に対して,あまり信頼できないと判断する傾向が見られた」ということになる.

そもそも著者たちは,「背景のリズムと自らの動きがあっている人を,より信頼するだろう」という予測を立てていたわけであるが,まったく逆で,「背景のリズムと自らの動きがあっていない人を,あまり信頼しない」という結果が出たのである.この結果を次のように解釈できる.「行動を見るにあたって,リズムにあった動きをすることは,信頼するための大前提であって,信頼に対して特に影響がなかった.ただ,リズムに合った動きができないことは,この前提が崩れるので,信頼の程度を下げた.」つまり,リズムと動きがあうことは,もとからある信頼を増幅させる手段ではなく,そもそもの入り口である「信頼できるかできないか」を判断するための基準である可能性が示されたと考えられる.その入り口からどのように信頼を育んでいくのか,その過程を検討する研究が待たれる.

今回の論文紹介は以上です.わかりにくい部分があれば,それは僕の悪筆によるものであって原典によるものではありません.論文にアクセスできない場合は,ご連絡いただければ僕の可能な範囲で対応させてもらいます.質問などもご連絡いただければ,同様に対応するのでお知らせください.

今年はこのような活動もコツコツと積み重ねていきたいと考えています.今年もどうぞよろしくお願いします.

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